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給与を前払いした際の注意事項

冠婚葬祭や急な入院など、生活をしていく中で急な出費が必要となった時、手許の資金だけでは不足してしまうことがあります。消費者金融やカードローンを利用することで資金の工面は出来ますが、利息や信用情報への影響が気になるところです。
そんな場合に勤務先がお金を融通してあげることが出来れば、従業員満足度を高め、離職率の低下や働く意欲の向上が見込めます。
今回は会社側が従業員へ給与の前払いや貸付を行う際に気を付けるポイントについて説明していきます。

給与の基本的考え

会社勤めをしている方の場合、毎月仕事をこなし、その対価として毎月決まった日に給料が振り込まれることになります。つまり「労働サービスを提供した対価(見返り)としての給料」といえます。働いた分だけ会社から給料をもらえる仕組みになっているということです。例えば、支払期日が毎月25日と定められている場合に3月4日時点で請求できるのは、3月4日分までの賃金になります。まずは、この基本的な考え方を抑えておきましょう。

給与の前払いについて

給与の前払いとは、給与支払い日から繰り上げて先払いすることです。労働基準法により、企業は従業員からの申請があった場合、前払いをしなければならないと定められています。ただし、働いていない分(将来支払うつもりの給与分)を前払いすることは会社側からすると「貸付金」とみなされます。その貸付金を理由に、会社側が従業員に労働を強制したり、退職の妨げを行ったり、貸付け分を給与から差し引くといった行為は労働基準法第17条に抵触するため禁止されています。

前払いができる条件について

会社側は従業員から給与の前払いの希望を申請された場合、必ず応じなければならないかというとそういうわけではありません。どんな場合でも給与の前払いが認められるとすると、会社側の負担も増大する恐れがあるため、一定の条件が労働基準法により定められています。従業員に申請理由を確認した上で、下記に示した労働基準法の条件に合致しているかどうかをしっかり判断するようにしましょう。
労働者の収入によって生計を維持する者が、
① 結婚または死亡した場合
② 出産した、疾病にかかったまたは災害に遭った場合
つまり、上記のような非常事態で金銭的に急を要する場合ということになります。
また、労働基準法では、「やむをえない理由よって1週間以上帰郷する場合」も前払いが認められています。
※やむをえない理由とは、本来は認められないが、本人を責めるのが困難な特別の事情で例外的な実態や取り扱いを認めることをしても致し方のない理由です。

貸付金と従業員貸付制度

給与の前払いでは実際に勤務した対価が上限となるため、必要な額に足りないケースも出てきます。そのような場合には、会社から従業員へ貸付を行うことになりますが、貸付金では原則的には利息を取らないといけませんし、その利率も後述のものを下回ると、下回った分に係る経済的利益相当額が給与課税されてしまいます。
それでも、消費者金融やカードローンから融資をうけるよりはるかに低金利であり、融資の実行はあくまで社内判断となるため、信用情報の影響を受けません。
あらかじめ従業員貸付制度を制定しておけば低金利でも給与課税されることはなくなるため、福利厚生の充実を図るのであれば検討してみても良いでしょう。

貸付金の利息について

上項でもお伝えしましたが、働いていない分を前払いすることは税務的には「貸付金」とみなされます。会社側が従業員に金銭を貸し付けた場合には、利息を計算し、借り手である従業員から利息を受け取る必要があります。金融機関から借りた場合と同様に、年利〇%と定めた利息を法人は受け取る権利があり、従業員は支払う義務があります。この定められた利息とは、法人が金銭を貸し付ける際にある一定以上の利息を取れば利息相当額を給与として課税しないという基準となる利息です。この利息のことを「認定利息」といいます。
仮に、会社が受け取る利息の額が、次の表に示された利率を用いて計算した額より低い場合には、その差額分については経済的利益を得たと扱われ、金銭を借りた従業員の給与として給与課税されることになります。また、給与課税される場合、源泉所得税の徴収を行う必要があります。

①会社が金融機関から借り入れて貸し付けた場合 その借り入れた際の利率(平均金利)
②上記以外の場合 貸付けを行った年に応じた次の年利率
(特例基準割合)
・H22年~25年中に貸付けを行った 4.3%
・H26年中に貸付けを行った 1.9%
・H27年~28年中に貸付けを行った 1.8%
・H29年中に貸付けを行った 1.7%
・H30年~R2年中に貸付けを行った 1.6%
・R3年中に貸付けを行った 1.0%
・R4年~R5年中に貸付けを行った 0.9%

給与課税しなくてもよい場合

従業員に、無利息や上記の利率で計算したものより低い利息で金銭を貸し付けた場合であっても、次のいずれかに該当する場合には、給与課税されないことになっています。
(1)上記の利率により計算した利息の額と、実際に支払う利息の額との差額(経済的利益)が1年間(法人の事業年度内)で合計5,000円以下である場合
(2)災害や病気などで臨時に多額の生活資金が必要となったことに基因して、合理的と認められる金額や返済期間内で金銭を貸し付ける場合
(3)会社において、借入金の平均調達金利などの合理的と認められる貸付利率を定め、この利率により金銭を貸し付ける場合
※平均調達金利とは、(前事業年度の支払利息の合計額)÷(前事業年度の各月の借入金残高の合計額÷前事業年度の月数)で計算される金利です。

会社から経営者や従業員に金銭を貸し付ける場合には、一定以上の利率で利息を取らないと、該当金額が給与として扱われ、役員への貸付であれば、役員報酬の定額支給でない報酬の損金不算入に加え、源泉所得税の徴収漏れとみなされるおそれがあります。税務調査でも目を付けられやすいポイントですので注意しましょう。

まとめ

会社として給与前払いを上手に管理していくためには、従業員全員が給与前払い制度を理解できるような研修や説明会を開くなど環境を整えることが大事です。法律や労働組合のルールを遵守しつつ、従業員が生活をしやすくするための支援をすることは、良い職場環境を作る上で欠かせません。逆に、違反すると罰則規定により処罰を受ける可能性もあります。慎重な対応を心がけましょう。

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