社会保険料の節減について
年々支払い負担が増加し続ける社会保険料ですが、「社会保険料は決まった金額を支払わなくてはならない」という固定観念のある方が多くいます。実は社会保険料も工夫をすれば負担金額を抑えることができます。今回は、社会保険の負担を抑える6つの方法をご紹介します。
概要
社会保険料(厚生年金と健康保険)とは、毎月の給料から天引きされるものです。会社は15%ほど負担して、個人分の15%ほどと合わせて、合計で約30%の金額を国に支払う流れです。社会保険料といっても内訳があり、1つは厚生年金で将来の年金額に影響するものです。もう1つは健康保険料です。健康保険料を払うことで、病気の際に医療機関に本来払うべき医療費の3割程度で済みます。社会保険料を下げるデメリットとして、1つは将来受け取る年金額が減ることです。もう1つが病気の際の傷病給付金も減ることです。この2点を前提に押さえておきましょう。
節減方法
以下6つの節減方法を説明します。
① 《昇給月のタイミングを変える》
社会保険料は、4月〜6月に支給された給与の平均を標準月額報酬とし、以後12ヶ月分の社会保険料が算定されます。したがって、4月〜6月の間に昇給や残業をしてしまうと、早めに社会保険料の負担増となってしまいます。4月~6月を避けた7月を昇給月として、昇給後も社会保険料の増加を一定期間抑える方が従業員と会社にとってメリットが大きくなると考えられます。
ただし、昇給後、3ヶ月平均の標準報酬月額が2等級以上の差があり、そのいずれの月も支払基礎日数(一月当たり17日以上)を超えていた場合は、社会保険料の随時改定が必要となります。
② 《入社日と退職日を工夫する》
入社日、退職日を工夫すると社会保険料の負担を避けることができます。従業員が月末に会社に属しているとその月の社会保険料の支払い義務が発生します。
例えば、4月30日入社の場合は4月にも在籍していたことになるので4月分からの負担が発生しますが、5月1日入社の場合は5月分の社会保険料からの発生となります。
これは退職日についても同様で、4月30日退職の場合4月分の負担が発生しますが、4月29日退職であれば、4月分の負担は発生しません。労使双方で特に問題がなければ簡単に実施できることですので活用しても良いと思います。
③ 《月収を下げ、退職金にする》
給料や賞与を支給すると必ず社会保険料がかかりますので、その分を退職金に回すという方法があります。退職金は、社会保険料の対象外となりますので社会保険料の節減になります。さらに、所得税の面でも税制優遇があるのでさらに節減効果は大きくなります。
他に、企業型確定拠出年金を導入している企業であれば、例えば、月収40万の場合、社会保険料は40万の30%で12万円ほど納付します。それを月収35万に下げ、確定拠出年金への拠出を5万にすると、合計40万の支払いは変わりませんが、社会保険料は月収35万×30%の10.5万円の納付となり、1.5万円も社会保険料が下がるという結果になります。これは、企業型確定拠出年金への掛金が退職金の積み立てという性質になるためです。
④ 《福利厚生を充実させる》
昇給で支給するのでなく、福利厚生を充実させるという方法もあります。福利厚生を増やしても社会保険料は増えません。福利厚生の内容例としては、資格試験などの勉強の費用を負担する、社員旅行などを豪華にする、または、昼食の代金を半額未満で負担する、出産祝い金や慶弔見舞いを出すなどがあります。
⑤ 《パート・アルバイト、業務委託、非常勤役員を活用する》
人材の活用の仕方を変えることも節減につながります。
1つ目は、パートの活用です。正社員の4分の3以下の労働時間、労働日数であれば、社会保険に加入する必要がありません。正社員を1人雇う(社会保険負担必要)よりも、正社員の労働時間を2つに分け、2人のパートを雇う(社会保険負担不要)方が社会保険料を抑えられることとなります。ただし、責任の違いや入れ替わりの増加による問題等が起こるかもしれませんので慎重な判断が必要です。
また、従業員が101人以上(2024年10月以降は51人以上)の場合、以下の要件に全て当てはまる場合には社会保険への加入が必須となりますのでご注意ください。
・1週間の所定労働時間が20時間以上。
・雇用期間が2ヶ月超。
・所定内賃金が8.8万以上。
・学生ではない。
※従業員数は、正社員及び所定労働日数が正社員の4分の3以上のパート、アルバイト等のことを指します。
2つ目は、業務委託(外注)の活用です。外注先が自分で社会保険に入るので、自社としては社会保険料の負担は生じません。注意点は、実態が雇用と同じだと社会保険逃れや税金逃れとして税務調査などで指摘をうけますので、業務委託契約などで証憑を残し業務委託者と自社従業員の区別をしっかりつけましょう。
3つ目は、非常勤役員の活用です。非常勤の役員には社会保険の加入義務はありません。例えば、社長の奥さんが非常勤の役員になっている場合がよく見られます。そのように、給料を分散することで社会保険料と税金の削減を図るという方法があります。非常勤役員について、実は法律上明確な決まりがなく、「経常的な労務の提供」、「経営に対する参画」、「当該業務の対価」にあたるのかどうかがある程度の判断基準となります。不安な場合は、社労士や税理士など専門家にご相談ください。
⑥ 《賞与の支払い方法を工夫する》
賞与の社会保険料の計算方法の基本は、賞与額×30%ですが、健康保険は年間573万、厚生年金は1ヶ月につき150万円を上限とし、それ以上払った分については増えない仕組みになっています。
一方、毎月の給与・報酬にも上限があり、健康保険は135.5万円、厚生年金は63.5万円以上については保険料が増えません。
この上限を利用し、年間の保険料を抑える事ができます。ただし、月額を数万円、賞与を数百万円にするなど、極端な支払方法にするのはあまりお勧め出来ません。各上限付近の金額で漫然と支払うより、どちらかに寄せて支給すると上限を利用出来る、程度でご検討下さい。
まとめ
社会保険料は事業者にとっては負担の大きい支出ですが、社会保険料の計算方法や制度などを理解することによって負担額を抑制することが可能になります。しかし、デメリットも会社経営に大きく影響を及ぼします。社会保険料を節減する際には会社の利益だけではなく、それによりどんな弊害が起きるか、熟考の上で実行して下さい。